白井敬尚講演会 「思考する紙面設計」

2012年度 情報メディア学科講演会

カテゴリー
講演会
講師
白井 敬尚氏(グラフィックデザイナー・武蔵野美術大学教授)
開催日時
2012年10月10日(水) 15:15 ー 16:45
場所
同志社女子大学 京田辺キャンパス 知徳館3号棟1階C132

講師プロフィール 白井 敬尚氏

株式会社正方形、正方形グラフィックスを経て、1998 年白井敬尚形成事務所を設立。 主にタイポグラフィの分野を中心としたデザインに従事している。また、タイポグラフィ史の研究にも積極的に取り組み、多くの大学・学校でデザイン教育に携わっている。主な仕事に、『タイポグラフィの領域』『書物と活字』『ふたりのチヒョルト』『欧文書体百花事典』(以上、朗文堂)、『秀英体研究』(大日本印刷)、『ユリイカ』(青土社)、『アイデア』(誠文堂新光社)など。 武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科教授。

REPORT

タイポグラフィを中心に様々なデザインの分野にご精通され、現在、隔月刊のデザイン雑誌『アイデア』のエディトリアルデザインを担う、グラフィックデザイナーの白井敬尚氏をお招きし、講演会を行いました。今回は編集現場の記録写真をプロジェクターで投影し、実際の作業内容の解説を中心に、デザインという仕事について語って頂きました。

『アイデア』は、国内外や新旧を問わず、デザインに関わる人や物をテーマとした雑誌です。ヤン・チヒョルトやウィム・クロウェルといったデザイン界の巨匠から、西洋活版印刷に見られる花形装飾活字の再考、現代のアニメやコミックのデザインに至るまで、各号ごとにテーマを決めて幅広く取り上げています。全号を通して、サイズや表紙のタイトルロゴ以外は特定の型を決めず、全体の色やデザイン、開き方や文字の組み方もその時のテーマによって変化します。これには白井氏の、特定のスタイルに縛られることなく内容に応じたデザインをするという、編集的な視点が反映されています。白井氏は、それを『知覚的な編集』と表現されます。

白井氏のお話から、雑誌が完成するまでには多くの行程があることが分かります。打ち合わせから始まり、取材、撮影、レイアウトの決定の後は、キャプションの組み方や、飾り線、文字の大きさ、色、配置の間隔等々の細部に至るまで、制作課程でその全てを決めなくてはなりません。中でも編集側とデザイン側との打ち合わせが一番重要だと仰います。お互いの構想をラフスケッチに書いて提示し合い、再構成を重ねるのです。手書きで行われるこのやりとりの一端は同時期mscギャラリーにて開催の『白井敬尚展 思考する紙面設計』でも見ることが出来、その書き込みに、試行錯誤の様子、白井氏のデザインに対する真摯さが伺えます。

また、ご自身で改良を加えたグリッドシステムについても触れて頂きました。グリッドシステムとは、紙面を構成する際、グリッドと呼ばれる大きな方眼紙のようなガイドをフォーマットとして活用し、デザインに一定の規則性を保たせる方法のことです。白井氏は従来のグリッドシステムに比べてさらに細かくグリッドを区切ることで、グラフィックソフトの使用に適応し、かつデザインの多様性を損なわない方法をご考案されました。ただし、グリッドシステムを使用する際の注意点として、逆にその型に嵌りすぎてしまうと柔軟性を失うこともあるため、時にはグリッドを取り払い、本来目指していた形にたびたび返ることが必要であるとのアドバイスも頂きました。

『アイデア』で白井氏がデザインするのは、デザイナーを取材した紙面であるため、端的に言うと、そのデザイナーのイメージをデザインすることになります。対象となるデザイナーの雰囲気を損なわず、しかし同時にどのように自分なりの表現をするかが面白くもあり、困難な点だと仰いました。対象者が海外のデザイナーであるならば、もしその対象者が日本語でデザインをするとしたらどうするか、といったことを念頭に置いて作られるそうです。特に白井氏と年齢や世代の近い、現在活躍中の国内のデザイナーを取り上げる際が難しく、結果的に出来上がった記事が、対象者のデザインそのものになってしまうことを避けるためにも、御本人と直接会う機会を大事にされているそうです。

実際に会ってみた際の雰囲気や顔色、本棚に並んでいる書籍、手がけたデザイン(文字の組み方、トリミングの仕方に潜む各々の美学)を参考に、その人をどういう風に紹介してあげればいいかと構想を練ります。既に知られている部分ではなく、その人の言語化されていない部分の情報をどう汲み取り、感じたものをどう紙面に落とし込んでいくかに焦点を当てます。これらの行為は決して自身のデザインのトーンを失くしてしまうというのではなく、純粋に対象者を紹介するためのデザインとして見て、その妨げにならないよう配慮するということなのです。そのためにも、自分の中のイメージを忠実にデザインという形で表現できるようにならなくてはいけないと、白井氏は語られます。このように表現してあげたいが、できない、ということがあってはいけないのです。表現できないときはその原因を探り、改善をしていける技術を持つ。当たり前のような事ではありますが、様々な制限のある中でその意志に忠実であろうとするのは、とても困難なことです。

デザインの仕事というのは、どこまでも完成に近づけることはできても終わりのないジャンルであることを、お話を伺う中で感じました。厳しい中でも、それを楽しみ、技術を磨き続ける氏のお話に、学生は熱心に聞き入っていました。デザインを志す学生はもちろん、クリエイティブな分野を目指す学生たちにとって、氏の姿勢は大いに刺激となったと思われます。