第2回情報メディア学科ライティングコンテスト 入賞者発表

第2回情報メディア学科ライティングコンテストの入賞者が決定しました。
本コンテストは、同志社女子大学在学生・大学院在学生を対象に、
2017年5月26日から6月23日の期間にエッセー形式の作品を募集したものです。

第2回目となる今回は、エッセーのテーマを「インストール」とし、総数30作品の応募がありました。
審査の結果、5名の受賞者が決定しました。


第2回情報メディア学科ライティングコンテスト 入賞者一覧

入賞者 タイトル
最優秀賞 津上 理奈
情報文化専攻
作品
優秀賞 古金 紗奈
情報メディア学科
「気持ちがあるからこそ好きになってしまうこと」 作品
優秀賞 植田 絵里
日本語日本文学科
「その感性、いただきます。」 作品
審査員特別賞 手塚 ひかり
情報メディア学科
「私」 作品
審査員特別賞 太田 有紀
情報メディア学科
「羽化」 作品

※入選は該当なし
※受賞作品の掲載にあたっては、作者の意思を尊重し、原文のまま掲載しております。


総評

第2回のライティングコンテストとなった。応募は30作品。昨年よりも若干少なめとなった。残念ではあるが、昨年は複数あったテーマをひとつにしたことが原因であろう。また今回からは他学部・他学科からの応募も可能となった。実際に情報メディア学科以外からの応募もあり、今後ますます全学的なコンテストとして成長したいと願っている。
応募作品には、字数超過と締め切り後の提出がそれぞれ1作品あり、選考はこの2作品を除いて厳正に行われた。結果は前掲の通りだが、「入選」該当作品は「なし」とした。
昨年に引き続いて、どの作品も日頃教室で出会う学生諸姉によるものだとおもうと感慨もひとしお。選考委員会は応募作品のキラキラと輝く感性に圧倒された時間となった。
応募要領には「エッセー形式」とある。それはどのような文体でなにを表現すべきなのか、じつはそれほど単純ではない。しかし選考においては、エッセーには着眼点、表現力もさることながら、日常の経験と風景のなかにささやかなものであっても、ふとした異変に気づく洞察力が大切であることを改めて痛感させられることとなった。
以下、受賞作品について簡略にではあるが評を記しておきたい。

まず、最優秀賞・津上理奈さんは、二年連続の受賞。日常の一コマを綴りながら、自身の批評を挿入するリズムが心地よい。やがて両者は質、量ともに交替して、読者はいつのまにか作者の世界に引き込まれている。構成、描写ともに計算し尽くされているのに、あざとさとは無縁。目下(執筆時)就職活動中であるという作者は、二人の祖母を人生の先達と仰ぎながら、(空想上の)就活アプリなるものをインストールしない生き方を宣言し、清々しい決意で終えている。応募者名を伏した選考であったが、二年連続の受賞は偶然とはおもえない。津上さんの力量と日頃の精進の結果として賞賛し、今後にも期待したい。
優秀賞・古金紗奈さんは、パソコンからタブレットに主役を交替した感があるデバイスのトレンドと、新しい彼女に向かってしまった彼への未練が交差して、淡い恋心がみごとにそして爽やかに描写されている。「インストール」そのものは語られてはいない。さながら、新しい彼女に流行をインストールされて新しいデバイスを使い始めた彼のように、気がつけば、作者自身もその彼にインストールされてしまっていたのだ。失恋かとおもわれるのに、その表現は極めて抑制されている。読者の予想もみごとに裏切っていて心地よい。
優秀賞・植田絵里さんは、「ザツ」なわたしが「こまめな」友人と出会い、友人の助言をヒントに少しずつ変化する脳内を観察している。客観視こそが、作者をして「こまめな」わたしへの変貌を可能としたのかもしれない。あらたな視界を獲得していくその過程は、的確な表現力によって感性のインストールに喩えられている。
特別賞・手塚ひかりさんは、インストールを巡る母との会話をきっかけにして、時間も対話能力も奪ってしまうつぶやきアプリへとおもいを馳せている。端末だけではなく「自分の中にも」このアプリをインストールしてしまっているという着想にこの作品の妙がある。
特別賞・太田有紀さんは、読者を何度もだまして結末に至る。だまされすぎてこの結論も信じて良いのかどうか。芥川や太宰を彷彿とさせる擬古的文体には賛否もあるだろう。ただ、最後までこの方法を貫いた表現力は高く評価したい。

いま大学生の間で評判の『勉強の哲学』(千葉雅也)には、《勉強とは、わざと「ノリが悪い」人になることである》と書かれている。著者はフランス現代思想と哲学とを背景に、《私とは他者によって構成されている自分》を発見することだと喝破している。
エッセーの基本も、自己という日常が経験する非日常に潜む意味を発見することにあるのかもしれない。エッセーという表現形式によって、自分という絶対ともおもわれる主体が、じつは多くの、そしてじつに多様な他者によって構成されていることに気づくことができる。今回、受賞作品に限らず、応募されたすべての作品は、その濃淡は別としても、自己と他者を深く見つめたこころの世界を描いていた。
エッセーは感性の勝負だと断言する向きもあろうが、存外、あえて「ノリが悪い」人になろうとする「勉強」という、弛まぬ努力の結果なのかもしれない。
次回のライティングコンテストにもさらに多くの応募を期待したい。情報メディア学科生にとどまらず、本学のすべての学生たちが「エッセーを書く、という冒険」を通して、見慣れた風景と自分自身とを異化しながら、日常が孕む豊穣な意味の世界を語って欲しい。

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