「TRY TO GO OVER (T)HERE」田中幹人展
あらゆるものがデジタル化可能な社会の中で、私が表現したいのは<アナログだからこそ生まれる感覚>。そこにはアナログな行為をした者だけが得られる主体的感覚と、偶然の美しさ、理屈ではない面白さ、受け入れ難い驚きに出会う客観的感覚がある。その感覚は決してノスタルジーではなく、未来を紡ぐ“何か”の種なのだ。
ロケーションは、「もしあそこに人が居たら」と妄想すると胸が高鳴るような場所。例えば仰ぎ見るほどの高さの建築物や水面から突き出た杭であり、私は自ら被写体となってポーズをとる。一見危険な写真だが、制作の原動力はスリルではなく、妄想を現実にしたい純粋な欲求である。被写体はイメージを具現化する「誰か」で良いのだが、<アナログだからこそ生まれる感覚>を味わいたいがために、私自身なのである。
しかし被写体が私自身だと知った人は、私の作品を「セルフ・ポートレイト」とみなす。数多の芸術家によるセルフ・ポートレイトは、それらに強烈なメッセージ – – – 例えば社会を告発する、弱者に扮して諸問題を提起する、あるイメージを解体する…等々が込められているのだが、私は<アナログだからこそ生まれる感覚>=私からしか見えない光景を楽しみ、記憶の箱に「私だけの光景」を片付けて、いそいそと持ち帰っているだけなのだ。そして鑑賞者が「ここから何が見えるんだろう」と興味を持った瞬間、「私だけの光景」は誰も見たことのない特別なものとなり、私はその光景を唯一見た人となる。今や見たいと思えばなんでも見ることができる世の中で、鑑賞者は「見ることができない」というもどかしさに戸惑い、新鮮な感覚さえ覚えるのだ。
撮影には私がそこへ行ったという証拠でもある6×7フィルムを用い、セッティングの後、信頼する人物にシャッターを任せる。それをデータ化し、その画が持つ力を最大限に引き出す調整を行い、紙に印刷する。アナログからデジタル、再びアナログで完成する過程は「アナログから得る感覚を再認識」させ、「現実と妄想の間」に生まれた作品自体と重ね合わせることができる。とはいえ、作品から得る感覚は鑑賞者にお任せする。それを愉しみ私や居合わせた人と共有することが最も大切だからだ。
- カテゴリー
- 作品展示
- 展示期間
- 2022年6月24日(金)ー7月18日(月)
9:00-19:00 土日休館 - 場所
- 同志社女子大学 mscギャラリー
(京田辺キャンパス知徳館6号棟1階C163) - お問い合わせ
- 同志社女子大学 学芸学部 メディア創造学科事務室 TEL: 0774-65-8635
プロフィール
田中幹人氏
写真家、広告カメラマン。
嵯峨美術大学非常勤講師。写真家として作品を制作して個展/アートフェアに出品。「Try to go over there」シリーズを20年に渡りとり続けている。広告カメラマンとして、主に料理写真を得意とし、雑誌・WEB等で活躍。2010年より嵯峨美術大学非常勤講師。